スラウェシ島での野外調査
ここでは、2014年のスラウェシ島での調査の様子を簡単に紹介します。
インドネシア、スラウェシ島には7種のマカク属の固有種が生息しています。これらの種は遺伝的に近縁なため、霊長類の種分化の研究をするための最適な研究対象となります。2014年11月にこれらのうちの2種、Macaca heckiとM. tonkeanaの調査に行きました。 パルを調査地に選んだ理由はこれら2種のハイブリッドゾーンが近いからです。
スラウェシ島の固有のマカクの調査
調査の行程
羽田空港からジャカルタ(ジャワ島)に到着。ジャカルタで1泊して朝5時の飛行機でパルに移動。パルのTadulako大学で講義を行い、その後パルを拠点に調査。パルから帰国。
パルに到着
ジャカルタから飛行機で3時間程度のスラウェシ島のパルに移動。朝5時の飛行機で朝食を食べていなかったので、現地の食堂に行きました。食堂の脇をちらっと見ると。。。
パル、Tadulako大学での講演
朝食後はすぐに地元のTadulako大学に移動して講演です。小さな部屋で10人位を相手に話すことを想定していると。。。
heckiの子供が飼われていました。絶滅危惧種なのに?と疑問を感じつつも、かわいい小猿でした。
部屋は大きく、後ろまで満員。自分の席は豪勢な特等席。ちょっと大げさなのでは?と前を見ると
招待講演者の名前入りの垂れ幕。学生さんが対象でしたのでスラウェシのマカクと適応の話をしました。
パルでの調査
パルでは昔から現地の人がM. heckiとtankeanaをペットとして飼っているそうです。それらは近隣の山岳地帯から来ているらしいです。今回の調査では、現地の人が飼っている個体が自発的に落としたサンプルを集めました。共同研究者の方は絶滅危惧種だから保護が必要だということを飼い主に丁寧に説明して回りました。
講演後の記念撮影。この後さらに15分くらい学生さんに記念写真を撮られ続けました。
M. tonkeana: 「誰ですか!?」
ご機嫌ななめ、、、ではなく挨拶の表情です。
ジャカルタで偶然見た火吹き男
握手
飼い主からフタをしめたビンで水をもらった個体。ヒトのようにフタをねじって開けて、水を美味しそうに飲んでました。
こちらの個体はペットボトルでお茶をもらっていました。
庭の一戸建てに住んでいる個体。ちょっと臆病な小猿。
有名な?スラウェシのメダカ。側溝にたくさんいました。
移動中に見たパルの海。透明度が高く、きれいです。
堂々とした成体のオス(手前)。オスは成体になると手がつけられない暴れん坊になるため、飼い主が手放すことが多いそうです。はたしてどこに手放すの?というのが疑問でした。
同じオスをアップで。健康そうな歯をしています。
都市部だけでなく、このような村でもマカクは飼われています。
調査地での食事
インドネシアの食事はどれも美味しいです。最初の2回は少々体調を崩しましたが今回は食堂の生水を飲んでも大丈夫でした。ただし、スラウェシは辛過ぎるので小さな唐辛子をよけて食事をします。
こちらはジャカルタでの食事。好きなおかずだけ選んで食べて代金を払います。
スラウェシでの焼き魚。
ナシゴレンの鳥のせ。エシャロットを揚げたような野菜のトッピングが美味。
牛の骨髄とキャッサバ。骨髄はストローで吸い出します。
山道をひたすら走ります。道路脇の壁は崩れやすそうな地質で、実際に崩れるとブルドーザーで土をよけるそうです。崩れないようにはしないらしいです。
マカクを探し歩いても、森は深く、なかなか見つかりません。
トビトカゲ。脇腹の皮膜で滑空できます。
峠道にはこんなすてきな眺めのカフェもありました。
きびしい雰囲気の植物
ハイブリッドゾーンに到着。
しかし、分布の境界には何もなく物理的な障壁は一切感じられませんでした。
不思議な植物
ハイブリッドゾーンの調査
M. heckiとM. tonkeanaは自然下で交雑していることが知られており、分布の境界には幅の狭い交雑帯があります。この交雑帯を通して2種が遺伝情報を交流させていると予想しています。しかし、交雑帯が広がり2種が混ざることはないので、何らかの理由でこの2種は生息地に適応しているのではないかと考えています。このように交雑帯は重要ですので調査に行きました。
巨大なオオハシ?サイチョウ?羽音がすごいです。
山の天気は変わりやすいです。
ついにM. heckiを発見。
そして驚いたことに、一緒にいた個体はハイブリッド個体でした。
後に動画で確認したのですが、M. heckiとM. tonkeanaの両方の特徴を合わせ持っていました。
2種が形態的に大きな特徴で容易に区別できること、ハイブリッドゾーンに物理的障壁がないこと、ハイブリッド個体を確認したこと、などから、これら2種が種分化研究の対象に最適ではないかという考えに至りました。これは今回の調査での大きな成果であり、今回集めたサンプルも個体数が十分にあり実りある成果となりました。
最終日は朝7時の飛行機でしたが、空港まで調査を手伝ってくださった現地の方が見送りに来てくださいました。その方は空港の手荷物検査も顔パスしていたのには驚きました。
調査は多い日で総勢10人程(私以外はインドネシアの方)、毎日一緒に行動し食事をしていると、帰りに名残惜しくなります。次の調査もパルで行うことを考えながら帰途につきました。